ひろのの栞

思わず裸で駆け出したくなる波

北東北屈指のウェーブスポットが点在するといわれる洋野町。多くのサーファーが魅了され何度も足を運んでいます。おとなりの久慈市から通う立花さんもその一人。夏場は種市海浜公園でサーフスクールも開いています。

 

久慈市でサーフショップ「BANA SURF」を経営する立花正憲さん。17歳からサーフィンを始め、日本でも有数のビックウェーブ(仙台新港)に憧れて仙台に移住した経験もある、サーフ歴30年近いベテランサーファーです。生まれも育ちも久慈ですが、実は高校生の頃から洋野町の海に通っていました。

立花さん:「先輩たちは久慈でサーフィンをしていましたが、自分の時は埋め立てられちゃってもう久慈にはサーフポイントがなかったんです。だから高校の頃から板を抱えて電車に乗って、洋野町の数あるサーフポイント(今の海浜公園がある江戸ヶ浜や、有家、川尻)にはよく来ていました。それこそ電車で移動する湘南のサーファーみたいにね」

 

種市海浜公園の魅力

立花さんをはじめ、多くのサーファーで賑わう種市海浜公園は、白い砂浜の江戸ヶ浜海水浴場に面した大型海洋公園です。キャンプや海水浴が気軽に楽しめるように管理棟やトイレ、シャワー等の設備も整い、町民にも憩いの場として親しまれています。その魅力はどういった点なのでしょうか。

立花さん:「海浜公園は、アットホームで身近な感じがします。公共の場でもあるから、守られているような、人に見てもらってる安心感っていうのかな。関東にはトイレやシャワー、駐車場も完備している所はたくさんあるけれど、この辺りにはあまりないんですよ。仙台でさえも最近やっとできたくらいなので、最初からこれだけの設備が整っているのはすごいですよね」

また、サーフィンは通年でできるスポーツなので、自身の住んでいる久慈から30分圏内で通える距離というのもありがたいといいます。
続けて立花さんは、設備だけではない海浜公園の “波” の良さも語ってくれました。

立花さん:「ここは砂の保全のためのテトラポッドに囲まれているので、整った綺麗な波が立ちます。一言で言えば波のクオリティが高い。
例えば町内の別ポイントである有家(うげ)は、外海(そとうみ)に面しているので無作為に波が崩れることで、色々なところで波が多発する感じで……それも面白い波ではあるけれど、上級者は三角にギュッと立ち上がる波が好きなんです。海浜公園の波はまさにそれで、高くはないけれど綺麗に立ち上がる。小さいから初心者にも乗りやすい波なんですよ」

海浜公園では海を前にキャンプができることも魅力の一つです。盛岡や関東からもサーファー仲間が集いキャンプを楽しんでいます。立花さんも呼ばれて時々BBQに参加しているそうです。

立花さん:「波が良くてキャンプもできてトイレもシャワーもある。何もいうことはない。それだけで十分。関東のメジャースポットに比べると人も少ないので波の取り合いにならない。『海は綺麗だしのんびりしてて最高だな』ってみんな言っています」

 

サーフショップ「BANA SURF」

立花さんの経営するサーフショップ「BANA SURF」は、サーフ道具の販売・レンタル、サーフボードリペア、スケートボード・スノーボード 用品の販売に留まらず、サーフポイントガイドやサーフスクールも行っています。

取材のために着て来てくれたBANA SURFオリジナルのパーカー。「東京の友達が作ってくれた」と嬉しそうに笑う姿が印象的でした。

立花さん:「初心者の方でもまずはサーフィンに触れてもらって、楽しんで帰ってもらうことに力を入れています。『今日初めて来たので、記念にサーフボードの写真を撮って帰ります!面白かったです!』でも全く問題ない。軽い気持ちで良いんです。そういう人がハマってくれて、年10回来て『来年度も頑張ります』ってなると最高に嬉しいです」

サーフスクールは夏場の5〜10月、初心者の方を対象に事前予約制で行っています。多い時は1日に4,5人来ることもあり、年間100人くらいの方々が参加しています。

立花さん:「結構リピーターが多いですね。毎月来たり、週2回来てくれる人もいます。最近は釜石、一関からも来てくれます。新型コロナウイルスの影響で秋田や山形など県外からの人は減りましたが、逆に県内からの人が増えた感じはありますね」

スクールに来た人が「立花さん来年は道具全部揃えます!どういうのを買えば良いですか?」などと言ってくれるとやっぱり嬉しいと話す立花さん。すぐには買わず、色々試して自分に合ったものを買って欲しい。今はデザインも良くて性能も高いものが増えているので、始める人にとっては良い環境だと教えてくれました。

サーフスクールの様子

 

町内に点在するサーフポイントについて

町内には海浜公園の他に、有家、原子内(はらしない)、大浜、玉川、川尻、計7ヶ所のサーフポイントがあります。立花さんの一番好きなサーフポイントを伺うと「やっぱり海浜公園!」と答えてくれました。

立花さん:「バーっと車で来て、駐車場から波を見てすぐ入れる。ぶっちゃけ裸でも入れると思う。一度そういうおじさんがいましたよ。競泳用パンツは履いていましたけどね。『ちょっと待って、おじさんウェットスーツは!?』って思わず声をかけましたよ(笑)海浜公園はそういう雰囲気があるんですよね。気持ちがはやるというか。その気持ちは分かるけど、マナーとしてウェットスーツは着た方が良いですね」

立花さんの知人には、海浜公園にしか来ないという人もいます。歩いて行ける距離に家を借りたり、家を建てたりして、週末サーフィンを楽しむ人もいるといいます。根強いファンがいるのですね。

立花さん:「他のポイントは、そうですね。有家は波がない時に行ったりします。角浜もたまに行きます。原子内は今工事中で道路の砂を積んでいるかな。大浜は最近波が立たなくなったんですよね……。玉川は岩が多いので危ない、上級者向けですかね。川尻は堤防ができて登るのが面倒で、足が遠のきました(笑)」

有家は昔サーファーのメッカでしたが、現在はトイレも使用中止、駐車場も10台くらいに減ってしまいました。「海浜公園だけでなく、他のポイントも人を呼びやすい環境になれば良いのにね」と立花さん。

立花さん:「自分が海浜公園以外にあまり行かなくなった理由も駐車場が少ないから。有家みたいな広い浜をもっと開放してくれたら良いと思うけどね。サーファーは良い波を求めて移動する人種だから、初めて来る人にも分かりやすいことって結構大事かなと」

 

洋野町のサーフィンの未来

最後に、立花さんが思い描く洋野町のサーフィンの未来を語ってもらいました。

立花さん:「洋野町は日本でも有数の “波のラインナップ” があるところだと思います。そしてどれも質が高い。この周辺の人たちだけでなく、内陸の方からも海に来て気軽に波に乗れる環境を整えたり、洋野町の全部のスポットが海浜公園のように設備が充実すれば良いなと。アウトドアスポーツはまず環境を整えないと、その先に繋がっていかないと思うんです」

楽しむためには土台が必要で、一つでも欠けていたらダメなんですね。

立花さん:「以前アメリカに行った時『こんなに環境が良くて、こんなにみんな楽しく波乗りしてるんだ』って驚いたんです。環境が良いと、サーファーも集まってきて文化が栄えていくのを目の当たりにして」

その良い環境というのも、サーファーのためというより観光客のために整えられている。サーファーだけじゃない、色々な人が楽しめる環境がベストなのではないかと思っているそうです。

立花さん:「あとは、ぜひお二人(インタビュアーとカメラマン)にもサーフィンをやってもらいたいです」

サーフィンを始めた頃から、上手くなるとかプロになることは考えたことがなかったという立花さん。自分自身が、とにかく楽しく面白く波乗りをしたいという気持ちを持ち続けているからこそ、みんなにもサーフィンを楽しんでもらいたいという思いが強いのかもしれません。
そんな立花さんがお勧めする海浜公園に、ぜひ波乗りに来てはいかがでしょうか。

 

立花 正憲(たちばな まさのり)
1975年生まれ。岩手県久慈市出身。
17歳からサーフィンを始め、21歳で日本有数のビックウェーブに憧れ仙台に移住。
仙台新港でサーフィンをしてる時にサーフショップの社長にスカウトされ、店長として10年近く働く。
サーフショップを海の方に初めて移転させ、その一帯は現在サーフショップストリートになっている。
サーフボードをリペアしたり、手作りのボードを作る工程を習うため、
神奈川県藤沢市のサーフボードファクトリーに短期修行に行ったことも。
2006年久慈にUターンしてサーフショップ「BANA SURF」を開業。
お気に入りは、はまなす亭の磯ラーメン。かどふくにもよく出没する。

BANA SURF HP:http://banasurf.com

 

(2021/02/24 取材 後藤暢子)