【イベントレポート】ご当地ワインで地域づくり〜いわて産山ぶどうワインの醸造に挑戦〜
10月28日(木)にオンラインイベント『ご当地ワインで地域づくり〜いわて産山ぶどうワインの醸造に挑戦〜』を開催しました。 今回のゲストは、岩手県にある株式会社岩手くずまきワインの製造部長であり醸造家の大久保圭祐さん。山ぶどうワインの特徴や楽しみ方、くずまきワインの取り組みなどを伺いました。 山ぶどうは古来日本に自生する在来品種で、岩手県は全国トップの生産量を誇ります。岩手県はその山ぶどうの生産量が日本一。くずまきワインは山ぶどうを使ったワイン作りに1986年からいち早く取り組んできました。今では地域連携ワインとして洋野町をはじめ県内8ヶ所で山ぶどうワインを製造しています。また山ぶどう以外の果実酒も複数地域で製造しています。 当日は16名が参加し、洋野山葡萄ワイン付きのチケットを購入してくれた方は、実際にワインを飲みながらイベントに参加してくれました。
くずまきワインの取り組み、山ぶどうワインについて
大久保さんのお話しでは、くずまきワインのこれまでの歩みから紹介していただきました。
山ぶどうは葛巻や周辺地域で山林に自生しており、かつては搾った山ぶどうをビンに詰め、お産をした女性のお見舞いなどに用いる『さんと見舞い』といったものが行われていたそうです。この山林資源である山ぶどうを使って新しい産業ができないかと考え、1986年に会社設立、1988年に醸造免許取得、山ぶどうワイン製造販売へと至りました。
当初山ぶどうは酸味が強く、売り上げは赤字続きで厳しいものでした。そこで1995年に果実酒製造免許緩和で白ワインも作れるように。その結果、1997年に黒字とすることができ、その翌年には「ほたる白」を発売。フルーティな飲み口で売り上げは好調だったようです。その後大久保さんはドイツの研究所への派遣等を経て、2002年には県内で初めてスパークリングワインを製造・販売しました。2008年にはくずまきワインの製造所の横に、体験施設「森のこだま館」がオープン。同年に山ぶどうブランデーが発売に。また2014年にはぶどう以外の果実でも果実酒の製造が可能になり、りんごワインも発売されました。現在ではブルーベリーワインやサルナシワインなどの地域連携ワインも醸造されています。
続いてくずまきワインの独自性について。
くずまきワインは日本固有品種である山ぶどうや山ぶどう交配種を原料に使用しています。ヨーロッパ系のワインに比べ、山ぶどうからは酸度が高く、色が濃いワインが醸造できます。他の品種に比べて明らかに風味が違うそうです。また、岩手県の古い地質はワイン造りに適しており、およそ2ヘクタールからなる葛巻町の畑から、毎年8〜9トンほどのぶどうが採れています。
山ぶどうにはそれぞれ特徴のある複数の系統が存在しているので、一口に山ぶどうといっても特徴や産地ごとに味わいが異なります。葛巻系の特徴としては色調が濃く酸度が高い、糖度が高く熟期が遅いなどが挙げられます。ぶどうの粒は他の品種に比べて小さいように見受けられます。
山ぶどうの仕込み方法として色素の抽出や酸味を抑える方法、果もろみ加熱圧搾果汁仕込みの方法についても紹介していただきました。
また、洋野町で山ぶどうを栽培しているである下川原さんの紹介をさせていただきました。昔からくずまきワインさんに原料を提供しているそうです。10月の半ばに訪ねた際には、今年の山ぶどうの収穫は終わっており、りんごの収穫を行っていました。
くずまきワインができた経緯から、岩手県の山ぶどうについてのお話を聞いて、参加者からの質問もありました。
Q.山ぶどうワインに合う料理はありますか?
大久保さん:「『森のこだま館』の赤ワイン煮などの酸っぱい山ぶどうを使った料理に合います。あとは葛巻町の『森のそば屋』さんで温かいお蕎麦を食べた際に一緒に『山ぶどうクラシック』を飲んだらとても合ったので、温かいお蕎麦とも合うと思います」
大原さん:「先日くずまきワインさんで頂いたクリーム煮とアヒージョの缶詰を調理しました。他にも商品がありますよね」
大久保さん:「まだおつまみ缶は2種類のみですが、これから種類を増やしていきたいと思っています」
大久保さんはワインをお肉と一緒に召し上がるのがお好きだそうで、鶏肉には白ワインを合わせるのをおすすめしてくれました。白ワインは甘い味噌を使った料理やレモンを使った料理にも合うとのことでした。
Q.山ぶどうの酸味を抑える方法や、他のぶどうと違い、工夫する点はどこですか
大久保さん:「酸味を抑える方法は何種類かありますが、なかなか大変です。山ぶどうは他のぶどうと違い、樹勢(樹木の成長する勢い)が強いので、芽数や枝を調整して樹勢を整えています。普通のぶどうは自家受粉しますが、山ぶどうは雄花の花粉が雌花の花粉に付く必要があるので、雄木を混植させて風や虫の働きで受粉できるように工夫しています。山ぶどうは元々自然に生えていたものなので他のふどうよりも病気になりにくいという特徴もあります」
洋野町の山ぶどうワインは酸を半分ほどまで落としていますが、酸を落とすとバランスが崩れることもあり、味のバランスを保つために工夫しているそうです。
Q.葛巻で山ぶどうワインが造られ始めるにあたって、当時どういった地域の考えがあったのか教えていただきたいです
大久保さん:「1980年代半ばに当時の町長が山ぶどうでのワイン造りを進めたいとの考えを持ったそうです。赤字を長期間抱えなんとか黒字に転じて今に至りますが、今になって当時の町長の取り組みが評価されたのではないかと思います。取り組みとしては当時山ぶどう農家さんはいなかったので、町の人がぶどうを選抜して農家に配布し、山ぶどう栽培を始めました。そのことから『葛巻系』という山ぶどうが広まりました」
参加したみなさんからは、「ワイナリーの歴史や取り組みを聞けて良かった」、「ネットやパンフレットでは分からない専門的なお話も聞けて勉強になったなどの感想をいただきました」
山ぶどうワインの製造当初は決して賛成の声も多くなかった上、赤字続きだったというくずまきワインさん。その中でも白ワインや他の果物でのワインを発売するなど工夫の末に黒字に繋がることができ、今では複数地域でのワイン醸造が進められています。
10月28日には『無ろ過・白 2021』と『無ろ過・赤 2021』が発売されました。ろ過をしていないため通常のワインよりもフルーティでふくよかな味わいになっているそうです。
今後も、どのようなワインがくずまきワインさんから発売されるのか楽しみです。
ゲストプロフィール
大久保 圭祐さん
1974年岩手県盛岡市出身。株式会社岩手くずまきワイン製造部長。
岩手県葛巻町の「岩手くずまきワイン」は2年連続”日本ワイナリーアワード”4つ星獲得ワイナリー。株式会社岩手くずまきワインは過疎化を防ぎ交流人口を増やそうと1986年に設立された町の第三セクター。前例が少ない「山ぶどう」ワイン造りへの試行錯誤を繰り返し、今では全国から認められるワイナリーへと成長。
国内の醸造研究所や、ドイツでワイン醸造を学んだ大久保さんの醸造家歴は24年。洋野町や他地域からの醸造依頼も多く、たくさんの方から信頼されている。
くずまきワインHP:https://kuzumakiwine.co.jp
(2021/11/26 レポート 高瀬未希)