ひろのの栞

人と本をつなぐ

洋野町立種市図書館は、歴史民俗資料館・武道館との複合施設として、昭和58年に開館しました。海を見渡せる丘の上に建てられたこの図書館は、開館当時と変わらぬ姿で町民の方々に利用されています。今回は、平成7年から図書館司書を務めている平留美子さんに、司書を選んだきっかけや地域と図書館の関わり方についてのお話を伺いました。

本に囲まれて暮らしたかった

「小さい頃から本が好きでした」と話す平さん。身近に本があったのは、出稼ぎに行っていたおじいさんが、帰ってくる時のお土産として本をたくさん買ってきてくれたからだそうです。本に携わる様々な仕事の中から、平さんが図書館司書を選んだきっかけについて伺いました。

平さん:「図書館に住みたくて、本に囲まれて暮らしたかったっていうのがありました。図書館って、静かだけれど、何か知識があると思うんです。昔の人の経験とか、歴史がある。『昔の人はこういう考えでここまで来たんだな』って思います。それを元に未来が見えるじゃないですか。長い時間をかけていろいろな人がチャレンジをして、失敗と成功を繰り返してっていうところから可能性が広がっていくように思っています」

そうして、平さんが具体的に将来の職業について考え始めたのは、進学する大学を選ぶときでした。

平さん:「最初から司書一本だったわけではないんです。友達と同じ大学に入学することになり、その人が教職と司書の資格を取ろうとしていたので、一緒に授業を受けた流れで自分も司書資格を取り、親戚から『うちで働かないか』と誘われたので卒業後は民間の会社に就職しました。そして、4年ほど働いている間に公務員試験に合格し、種市図書館に司書として配属されました。その都度その都度、自分で選択してきた結果として今があります」

その人自身が考えることを大事にする

種市図書館のような公共図書館では、利用者の多様な要望に応えられるよう、幅広いジャンルの本を満遍なく揃えています。そこで働く司書の仕事は、「人と本をつなぐ」ことであると平さんは教えてくれました。

平さん:「本はそのままそこにあるだけでは、必要な人のところへ行かないんです。誰かの人生のために必要な本を探してあげて、『あなたの探している本はこんな感じですか?』、みたいな感じで何冊か提案するのがお仕事です」

図書館を利用する方の状況は様々あると思いますが、一人ひとりにあった本はどのようにして選んでいくのでしょうか。

平さん:「人と話をして、どんな本を求めているかということを聞き出すのが一番ですかね。子どもさんたちでも『夏休みの宿題をしに来ました』とか『自由研究があります』というだけだと、何を探してあげたらいいかわからないので、どんなことに興味があるか、何日でやるのか、課題やテーマはないか、などを色々聞いた後に『これとこれがあるけどどれにする?』とやり取りしていきます」

この時、解答は提示しないように意識しているそうです。問いに対する答えや答えに辿り着くまでの過程が複数ある中で、「その人自身が考えること」を平さんは大事にしているそうです。

平さん:「司書側から、これが一番いい本だと提示しても、その人にとっての一番ではないかもしれないですしね。性格も人それぞれだし、本を探している理由も様々なので、まずは話をしながら探りさぐりで相談に乗っています。最終的には、司書が選んだ本に限らず、本人が自分で自由に探し出せればいいんですよ。自由に図書館を見てもらって、だいたいこの辺に自分が探してそうな本があるなって思ってもらえればいいですね。『さっきの司書さんはこんなことを言っていたけど、実は俺はこっちの方が好きなんだよな』とかって、自分が何を読みたいか、その人はそこで気づくわけなんです」

子どもが楽しく過ごせる場所

種市図書館の館内には、入り口すぐに絵本などの児童向けの図書を揃えた児童室があり、幅広い蔵書の中でも児童書の数が多いことがわかります。

平さん:「初代館長の酒井久男さんが、蔵書の児童書の割合を4割とされました。半分までは児童書を入れてもいいって思っていたそうです。そして、児童室は扉が閉まって、別空間になるじゃないですか。それがすごく良いみたいですよ。扉を閉めたら、中で騒いでも外の方に聞こえづらいので自由に過ごしやすいですし、一般の利用者にも迷惑がかかりづらいんですよ。絵本のおもしろさをお友達と楽しく話している姿がみうけられる児童室です」

また、児童室では子どもたちがかくれんぼをしていることもあるそうで、「すごく楽しげにやっています。こういうことで、本に囲まれるのが好きになることもあると思います」と平さんは話します。そして、児童室入り口近くにある大きいクマのぬいぐるみが、子どもたちにとって身近な存在であるようです。

平さん:「大きいクマのぬいぐるみを玄関まで持って行った子がいて。玄関にクマが寝ていました。寝かせてあげたかったみたいです。私が元の場所に戻したら、今度はその子が椅子を持ってきて、足を乗せてあげて(笑)兄妹二人してせっせとそれをやっていました。クマさんを楽にしてあげたかったみたいです。それをみてお母さんが大笑いしていました。それくらい自由で、とてもやさしい風景でした」

みんなの図書館

移動図書館や学校図書館での取り組み、館内での企画展というように、種市図書館は様々な形で本と接する機会をつくっています。図書館を利用される方のなかには、「自分で持っているお気に入りの本を本当に欲しい人と交換したい」という方もいらっしゃるそうです。「お客さん企画のイベントを叶えていくのもいいですね」と平さんは話します。そして最後に、図書館の今後のことについて次のように話されました。

平さん:「みんなで来て欲しいです。みんなで図書館を作りたいし、みんなの居場所になる図書館にしたい。いろんな人に使って欲しいし、関わって欲しいです。棚に本を並べてもらうとか、蔵書点検に参加してもらうとか。図書館見学を大人の方がやっても面白いかなと思います」

平さんは、司書として人と本に向き合い、利用者と一緒になってそれぞれに合った本を選び、人と本とが出会う機会をつくってきました。そのようにして生まれる本を通じた人と人のつながりの先に、「みんな」が主体の未来が続いていくのではないでしょうか。ゆったりとした時間が流れる館内で、ぜひ自分に合った一冊を選んでみてください。

 

洋野町立種市図書館
住所 〒028-7914 岩手県九戸郡洋野町種市23-27-1
開館時間 平日(9:00~18:00)・土日 祝日(9:00~17:00)
休館日  毎週水曜日・祝日の次の平日・年末年始(12月29日~1月3日)
電話番号 0194-65-3943
FAX番号 0194-65-3958
メールアドレス taneichi-toshokan@town.hirono.iwate.jp
Instagram https://www.instagram.com/hironotoshokan/

平 留美子(たいら るみこ)
昭和45年 洋野町宿戸地区生まれ。
本を読むことが趣味で、好きな本は小野不由美さんの十二国記シリーズ。最近は青山美智子さんが書く小説が好き。休みの日は本屋さんを3箇所回ることもある。

 

(2024/6/18 取材・写真 藤森大将)