“にぎわい”が生まれる場所に
洋野町にぎわい創造交流施設「ヒロノット」は、2020年3月に閉校した宿戸中学校を利活用した複合施設です。学校の面影を残しつつ、コワーキングスペースやサテライトオフィス(貸事務所)など、これまで町内になかった新しい施設がそろっています。今回は、ヒロノットの担当者として立ち上げから現在の運営にも携わっている、洋野町役場特定政策推進室の安藤和夫係長にお話を伺いました。
地域に必要なものを
2021年11月にオープンしたヒロノット。コワーキングスペースや会議室に加え、サテライトオフィスを備え、2022年4月からは宿泊施設の利用も開始しました。廃校の利活用としてこの施設ができるまでには、さまざまな経緯がありました。
安藤さん:「人口減少で、洋野町内に廃校が増えていることが町の課題になっていました。宿戸中学校も2019年度で閉校になってしまって。学校の利活用は、期間が空いてしまうと施設が老朽化してしまって難しくなるので、できるだけ期間を空けずに取り組みたいと考えていました」
同時に、安藤さんが所属する特定政策推進室では、雇用の創出に関する事業にも取り組んでいました。企業誘致を行っていましたが、洋野町は大規模な工場を誘致することが難しい地域だったため、あらかじめ建物を用意して、サテライトオフィスというかたちで企業を誘致することを企画したそうです。
また、宿戸地区は、青森県八戸市から福島県相馬市までの太平洋沿岸をつなぐロングトレイルである「みちのく潮風トレイル」のルートにもなっており、トレイルを目当てに洋野町に訪れる人も増えていました。利用者が気軽に泊まれるゲストハウスのような施設などがあればいいという声もきっかけとなったそうです。
安藤さん:「そんなときに、ちょうど国のコロナ対策の臨時交付金が使えるようになったんです。コロナに対応した施設として廃校の利活用、サテライトオフィスや簡易宿泊施設の整備に取り組もうということになって。そこからいろいろな話が結びついて、この施設の整備が進みました」
企業誘致、雇用創出、体験型観光等の事業を行う特定政策推進室が整備を担当することになり、2020年3月の閉校の後、5月には利活用に向けての話し合いが開始。町で利活用の方針を決めた後、宿戸地区の役員に説明したところ、地域としても賛成の声が多く、滞りなく利活用に向けての計画は進んでいきました。
安藤さん:「地域としても具体的な要望はなく、旧校舎を地域のため、町のために使ってください、という感じでした」
一方で、教育委員会とのやりとりや大規模な工事の計画、完成後の運営体制など、決めることが多く、この時期が一番大変だったと安藤さんは振り返ります。
安藤さん:「施設にどういう機能を持たせるかは、『廃校利活用構想』というものを外部に委託して作っていただき、検討しました。学校の建物をいかしながら、地域の状況やコロナの影響を考慮すると、こういう使い方がありますと提案していただいて。コワーキングスペース、サテライトオフィス、多目的室など、それをもとに設計をして工事に進みました」
2020年の秋頃から廃校利活用構想の策定に取り掛かり、2021年4月から建物の工事が始まり、11月に完成。同月24日には開所式も行われました。
完成してすぐ、種市に事務所を持つコールセンターがヒロノットのサテライトオフィスにも新たに事務所を増設したり、2名の地域おこし協力隊が活動の拠点として多目的室に入居しました。
同時に、施設運営や利用促進に取り組む地域おこし協力隊の募集も開始し、2022年1月から1名の隊員が活動を展開しています。
さまざまな利用ができる施設として
ヒロノットは、コワーキングスペース、簡易宿泊施設、会議室、体育館(屋内運動場)やグラウンドを備えています。
コワーキングスペースは通信環境も整っており、リモートワークやワーケーションにも使用できます。簡易宿泊施設は、みちのく潮風トレイルのハイカーや一般の方の利用はもちろん、研修やスポーツ合宿の受け入れも行っています。
利用料金については、町の規定や他の施設の利用料に基づいて策定しました。
安藤さん:「交通のアクセスもいいわけではなく、他の地域から人がたくさん来るというわけでもないので、特にサテライトオフィスは料金を低めにおさえて、利用率を上げることを意識しました」
町内に同じような施設がないので、コワーキングスペースの料金は周辺自治体のものを参考にしたそうです。
宿泊の利用者については、町外からトレイルや仕事で利用する人だけでなく、高校生のスポーツ合宿での利用も増えています。グラウンドや体育館で練習をすることができる点が評価されているようです。
グラウンドと体育館は町民であれば無料で利用することができるため、子どもたちが遊んだり、バスケやバレーで利用したりする人も増えています。
安藤さん:「宿泊してくれた人からは『いい施設ですね』と高い評価をいただいています。そこからリピーターを作っていったり、口コミを広げていきたいですね。洗濯機や乾燥機も完備しているので、運動部の合宿やトレイルの方にも多く利用してもらっています」
また、利用者からのアンケートで「トイレが遠い」「調理スペースが欲しい」という意見が多かったため、それらを増設することに。利用者の声をしっかりと反映し、利便性を高めています。
さらに、BBQの道具(焼き台、網、鉄板)の貸し出しや、キャンプをすることもできるのでアウトドアが好きな人にもおすすめです。
コワーキングスペースは、仕事をする人はもちろん、地元の高校生が勉強しに来ることも。
安藤さん:「サーフィンをしながら旅をしている方が利用してくれたこともあって。コワーキングスペースで仕事をして、ちょっとサーフィンに行って、また次の日に仕事して……理想的な活用の仕方ですね」
一方で、洋野町内でテレワークやリモートワークをしている人が少ないため、町内の利用者が少ないことが課題になっています
サテライトオフィスは現在はほぼ埋まっており、新たな募集はしていないそうです。拠点を増やしたコールセンターが子育て世代の女性などを20名近く雇用したり、青森県の食品会社が洋野町で新しい商品開発をしたいという想いで入居したりと、新しい動きも生まれており、これからの展開が楽しみです。
ヒロノットをきっかけに
ヒロノットでは、地域おこし協力隊主催のイベントやトレイル関係のセミナーをはじめ、大小さまざまなイベントが行われています。
安藤さんが特に印象的だったのは、2022年9月に開催された「ひろのクラフトフェス」。
このイベントは、町外のクラフト作家グループが企画し、町が後援やサポートを行いました。
安藤さん:「正直、イベント開催までは知名度の低いヒロノットに人が集まるか少し不安でしたが、2日間で2,000人の来場がありました。主催者の方々が綿密に準備をしてくださったおかげでこんなに人が来てくれて……こちらも驚きと新しい発見がありました」
コロナ以降、町でこの規模のイベントを開催するのは久しぶりだったこともあり、子どもからお年寄りまで多くの人が楽しみました。
安藤さん:「このイベントがきっかけで洋野町、ヒロノットに初めて来たという人や、宿戸中学校の卒業生が久しぶりに足を運んでくれたりしたんです。何より、地元の人がこのイベントを楽しみにしてくれていたのが嬉しかったです」
今年の夏にも同イベントを開催する予定で、1回目でできなかったこともしたいと、さまざまな企画を用意しているそうです。
また、廃校の利活用の事例として視察の受け入れも行っています。
安藤さん:「多くの市町村や団体の方が視察に訪れています。遠いところだと、みちのく潮風トレイルの関係で、統括本部がある宮城県名取市の市長さんが来てくれました。トレイルがお好きなようで、有家から歩いてきて、そのままヒロノットを視察してくれて(笑)」
他の自治体でも、廃校の利活用は課題になっているそうです。ヒロノットの特色を安藤さんはこう考えています。
安藤さん:「ヒロノットは、『こういうのがあればいいよね』というものを複合的に入れた施設なので、泊まれるし、セミナーや研修もできるし、仕事もできる。体育館やグラウンドもある……利用者の幅も広がるし、それが施設の強みだと思います」
旧宿戸中学校がヒロノットとして利活用されたことで、町内にある他の廃校も利活用したいという声も挙がっていますが、建物の老朽化や立地の問題で簡単には取り組めないのが課題です。国が行っている廃校利活用事業の制度なども上手く活用していきたいと考えています。
もっと身近で親しみのある施設に
最後に、オープンから1年が経って見えてきた課題や、今後についてお聞きしました。
安藤さん:「コワーキングスペースと簡易宿泊の利用促進が課題ですね。コワーキングは、仕事以外にもイベントで使用してもらうなど、ヒロノットならではの良さをいかしたいです。また、広い施設なので維持管理や施設管理についての体制も整えなければと考えています」
現在は、町の「にぎわい創造推進員」として1名の地域おこし協力隊がヒロノットで活動しており、2022年11月には「ひろのマーケット」というイベントを開催しました。フリーマーケットやステージ発表を楽しみに、町内外から約300人の来場者があったそうです。今後もこのように、地域おこし協力隊が自主的に活動できる機会を増やしていきたいと安藤さんは考えています。
安藤さん:「廃校になって『地域が暗くなるのではないか。子どもの声が聞こえなくなるのではないか』という話も出ていましたが、『このように利活用してもらってよかった。イベントがあることで楽しい』という地域の方の声も聞けて、運営している私たちの励みになっています」
「にぎわい創造交流施設」という施設名は、交流の拠点として機能することを目的に決められました。町名である「ヒロノ」と、結び目や絆、縁の意味を持つ「knot(ノット)」を組み合わせた愛称である「ヒロノット」は、一般公募の中から選ばれました。
安藤さん:「名前にもある通り、にぎわいをつくっていきたいので、地域の人たちに親しんでもらったり喜ばれる施設になればと考えています。町のイベントもそうですが、町民が『何かやりたい』と思ったときに『ヒロノットを使えないかな』と思ってもらえるくらい身近な施設になったら嬉しいですね」
町外から来る人はもちろん、地域の人が親しみやすく、気軽に使える施設になることを目指しています。
かつては子どもたちの元気な声が響き渡っていた中学校。入り口にそのまま残されている下駄箱や、階段に描かれた絵を眺めていると、どこか懐かしい気持ちになります。その歴史に幕を閉じ、新しい働き方や、地域の交流の場として生まれ変わったヒロノット。たくさんの人の笑顔が溢れ、にぎわいが生まれる場所に、ぜひ足を運んでみてください。
洋野町にぎわい創造交流施設 ヒロノット
住所:〒028-7902 岩手県九戸郡洋野町種市7-116-21
TEL / FAX:0194-75-4260
Email:info@hirono-nigiwai.com
Instagram:https://www.instagram.com/hirono_nigiwai/
Facebook:https://www.facebook.com/hirono.nigiwai/
HP:https://hirono-nigiwai.com
安藤 和夫(あんどう かずお)
1975年 洋野町種市地区出身。
大学卒業後、種市町役場(現在の洋野町役場)に就職。
農林課、会計課、企画課、水道事業所、総務課、税務課を経て、現在は特定政策推進室4年目。
趣味は釣り。
(2022/12/7 取材 大原圭太郎、千葉桃子)