ひろのの栞

「美味しそう」の向こう側へ

2024年7月に開店10周年を迎えるcafé oHHo。洋野町に暮らす夫婦によって営まれ、板張りの壁と薪ストーブのある心地よい空間の中で提供される、おふたりそれぞれの経験をベースにした料理やサービスに根強いファンが多いお店です。今回は、おふたりが料理や飲食業の世界に入るまでのこと、そして洋野町にお店を出してから今日までのことをうかがいました。


料理、飲食業、フレンチとの出会い

café oHHoを営むのは星さんご夫妻。都内のフランス料理店勤務時代に出会い、ご結婚されたおふたりは、それぞれどのような経緯でフランス料理をなりわいにするようになったのでしょうか。

宏樹さん:「元々両親に洋食屋さんに連れて行ってもらっていたこともあって、洋食に興味を持って専門学校での専攻を洋食にしたんです。それから卒業して最初に入ったお店がガチガチのフレンチだったんですよね。でも今は、『フレンチがなりわい!』っていうよりも根底にあるものかな。料理のベースにあるのがフレンチの技法です」

桜さん:「大学時代にバイトをしようってなって。当時は今の100倍くらい人見知りがすごかったんですけど、岡本太郎さんの本に『迷ったら困難な方に行ったほうがいい』っていうのがあって、飲食店で働いてみたんです。そしたらすごいハマっちゃって(笑)卒業後は、有名なフレンチのシェフが手がけるベトナム料理のお店で働けることになりました。その店は、料理だけじゃなくてサービスのトップの人たちと一緒に働ける環境があったんですよ。私の場合はものすごく人に恵まれていて、様々な業態で飲食というエンタメを学ばせていただきました。その中でもフレンチは最も縁を感じた世界でした」


キャリアを築くさなかで

様々な店舗での経験を重ね、宏樹さんは料理人として、桜さんはサービス・マネジメントスタッフとしてのキャリアを若くして着実に築いていきます。洋野町に拠点を移す決断をしたのはそんな最中でした。

桜さん:「抵抗感は私の方が強かったかも、自分の地元でもあるし」

宏樹さん:「僕は海のない盆地で育っているから、海のある環境への憧れはありました。ここに店を出す前は、震災のあたりから3年くらい仙台にいたんですけどね。仙台に引っ越してからすぐに震災もあったし、これからどうしようかなあ…ってずっと迷ってて。そんなタイミングで種市にいるお義父さんから心配の声をかけてもらったんですよ。種市に引っ越してからは、後ろ向きな気持ちとかではないんですけど、不思議な気持ちのまま店づくりをして、そんな感じのままここはオープンしたんです」

オープン当時の店舗外観


「オッホらしさ」をふたりで追求する

単純に前向きとも後ろ向きとも言えない複雑な心境を抱えていたのだと、開店当時のことを振り返りながら素直な言葉で話すおふたり。ついに、今年の7月には開店から10年を迎えます。

桜さん「最初の数年は、『こうした方がいいのかな?』『万人に好かれるお店をやらないといけない』みたいな感覚に囚われて。そんな自分と本当にやりたいことのストレスでね…。7年くらい経って、やっと『楽しいこともあるのかもしれない』って思えるようになりました」

宏樹さん:「今までは『こうあるべきだ』『フレンチに寄せるべきだ』っていうのがあったけど、コロナとかもあって変わってきて『オッホでいいじゃん?』『俺たちってオッホ料理やってるんだ』ってなったわけ。そう思うと、昔より今の方がモチベーション高くやれているのかもしれない。今やってることはフレンチでもないしイタリアンでもないし、和食でもなくてオッホ屋さんかな?」

桜さん:「宏樹にはよく『オッホらしさはどこですか?』って聞いてるよね(笑)」

宏樹さん:「そう。『なんかオッホらしさがなくない!?』とかって(笑)俺の中では、組み合わせ、食べ合わせ、香りを意識していて、その中でもちょっとしたスパイスの使い方とか、ちょっと引っかかるような味っていうのは気にしています。お弁当にしても、ただ埋めればいいというわけではなくて、弁当にするときに合う調理方法はなにかとか色々とふたりで何気なく話し合っています」

桜さん:「できあいのものではなくて、全部つくるようにしてるよね。何気なく話し合うっていうのは、たくさんの人でやっているお店だったらできないかな。何気ないけど真剣にやってるし、二人だからできることかなあ」

宏樹さん:「俺だけだと行き詰まるし、意固地になっちゃうから。話し合わないと良い答えは見つからないよね」

桜さんは「だけど、料理だけがフューチャーされるのはちょっと寂しいんですよね…」と漏らします。サービススタッフは、注文をとったり料理を運んだりするだけでなく、お客さまに料理と料理とともにある時間や空間を最大限に楽しんでいただくため、客席と厨房の状況を把握しながら、お店がうまく回るような立ち回りが求められるポジションでもあります。

桜さん:「私いっつも『旦那さんの手伝い』って言われるけど『なんで私が宏樹の手伝いなのー!(笑)』って正直思っています(笑)飲食店で過ごす時に少し背筋が伸びるみたいなのって嫌ですか?私はあえてそういうふうにしてるっていうか。でも、料理のことで何か聞きたいことがあったらどんどん聞いて欲しいし、何か調味料を加えてみたい時もそうです。そういう緊張を乗り越えた先に、お店で食事をする喜びがあるとも思うんです」

宏樹さん:「俺らも本当はお客さんに対して緊張してるんだよね。でも、緊張感あってこその面白さもオッホのいいとこだと思ってるかな。お店自体も我々で意見を出して、大工さんはお義父さんにやってもらって、俺も手伝って。ここはこうした方がいいとか、意見を言いながら出来上がったんですよ。だから、色々含めてこのふたりだからこそのこのお店なんです」


「美味しそう」の向こう側へ

開店以来、苦労や葛藤の多い時期は短くありませんでしたが、ここ数年は特に、毎年のイベントに呼んでくれる地元企業とのつながりができたり、開店当初からの常連さんから温かい言葉をもらったりと、嬉しいことや楽しいことがより増えてきたそうです。

桜さん:「開店当初から来てくれているお客さんに『オッホは美味しそうを絶対に超えてくれる』『ここで知った料理がたくさんある』って言ってもらえたのは嬉しかったね」

宏樹さん:「知り合いも誰もいない状態でゼロから始めて、常連さんができていく過程を味わえるっていうのは、飾らずに言うと『こんな自分たちとこのお店を愛してくれる人がこんなにいるの!?』っていう、嬉しさというか楽しさがありますね。その人たちの期待を超えたいし、またその反応も楽しみなんです。そういえば、この店で何回か『サラダがぬるい』って言われたことがあるんです。そういう細かいことを言ってくれる人がいるのは嬉しいし、これから気をつけなきゃいけないなあと思わされました。そういう方が来てくれると身が引き締まります」

桜さん:「私たちがプロの世界でやってきたことをみんなに広めるって言うのはまた違うかもしれないけど、それを味わってもらって、気に入ってくれる人たちの人生を変えたり、若い子たちの生活を変えたりできたら素晴らしい。自分たちの好きなことを、生き方も含めて伝えるってことができたらいいかな」

宏樹さん:「例えば、この街から出ていく人がいるとして、その人がこの店で味わった異文化や違和感っていうのが、ほかの土地や世界でも使える言語のようになったら嬉しい。ここで触れたものがその人たちの役に立ったら、その人が活躍できたら、小さいながらも人のためになっている気がします」

料理、サービス、空間、音楽、お店を構成するすべての要素を大切に、けれども無理をすることはせず、自分たちのペースで追求するオッホらしさ。10年かけて変わったことと、変えずにいることがある中で、「美味しさ」の向こう側へ導いてくれることが「オッホらしさ」のひとつなのかもしれません。

星 宏樹(ほし ひろき)
café oHHoの調理師。
福島県出身。昼寝とからあげと猫が好き。

星 桜(ほし さくら)
café oHHoのマネジメント・サービス係。
洋野町出身。猫とハイボールが好き。

café oHHo (カフェ オッホ)
美味しい日替わりランチと手作りスイーツのお店。
営業時間:11:30-15:30(ランチのラストオーダーは14:00)
Instagram:https://www.instagram.com/cafeohho/
※店舗やメニューの詳しい情報は、上記リンクよりInstagramへアクセスしてご確認ください

(2023/10/5 取材 小向光・写真 café oHHo / 2,4,5,7枚め、(一社)fumoto / 1,3,6枚め)
※本記事は、2023年度に開催した「ひろのを耕すなりわい展」のためのインタビュー記事を再構成、再編集したものです。