ひろのの栞

地域やチャレンジする人の土台をつくる(後編)

民間で地域おこし協力隊を受け入れる団体「fumoto」を立ち上げた大原さん。その名前に込められた思いや今後の展望、思い描くことを、引き続き高橋係長との対談形式で伺っていきます。

>>前編はこちら

 

一般社団法人fumotoの立ち上げ

民間で地域おこし協力隊(以下、協力隊)をサポートすることを決めた大原さん。任期も残り1年を切った頃、高橋係長の計らいで、副町長と各課長に対するプレゼンの機会が与えられました。役場側からは協力隊ありきの事業に対して心配の声も上がったといいます。そこには当時役場で協力隊を募集する中、思うように人が集まらない現状が背景にありました。
ある程度の人数を集めないと事業として運営していくのは難しい。しかし遠野市、奥州市の事例を見てきた大原さんは、やり方次第で人は集まると感じていました。役場にはなかった形式、多くの人が興味を引く分野で……。大原さんは協力隊の募集から任せて欲しい旨を伝え、役場側も「このままでは人が増える要素はない。大原さんの事業に賭けてみようか」となったそうです。

高橋係長:「町長からは、大原さんが任期終了後も定住してちゃんとご飯を食べていけるよう、バックアップをしっかりするようにと言われてました」

大原さん:「へ〜そうだったんですね。それは知らなかったです」

町長にも気にかけて貰いながら、最終プレゼンの直前には、高橋係長と当時の企画課課長と3人で釜石市に最後の視察に。ところが釜石市では厳しい現実も教えられ……

高橋係長:「帰りの車の中は『いや〜これはちょっと難しいんじゃないですか』ってなったよね」

大原さん:「当時の課長からは『ほんとに大丈夫?ほんとにそれでもやるのか?』って言われましたね(笑)」

高橋係長:「そうそう。大原さんは『はい、やります』って。強い思いを感じたね。そしたら課長が『やりたいって言ってるんだから、応援してみよう』ってね」

誰かがリスクを取らないと変わっていかない。何となくだけどどこかでちゃんと廻っていくだろうとは思っていたと大原さん。頼もしい一面を垣間見ました。

 

こうした経緯で、2019年9月一般社団法人fumotoは誕生しました。

大原さん:「チャレンジする人の土台になる、という意味をこめて山の麓からfumotoと名付けました。これから大きな山ができることも願って」

求人媒体の取材にも来てもらい、委託契約後すぐに協力隊の募集に向けて動き出せるようにしていたそう。結果的に8人くらいの応募がありました。

高橋係長:「今まで0人だったのが8人だからね。まずは成功だね!ってなったよね」

大原さん:「そうですね。ほんとホッとしました」

相談できたのが高橋係長で本当に良かったと語る大原さん。型にハマった人だったら大原さんの発想は受け入れられなかったかもしれません。

高橋係長:「まだまだ型にはハマらない男だからね(笑)」

 

今後の展望と思い描くこと

fumotoに所属する協力隊は現在7名。デザインや農業、建築、サイクルツーリズム、特産品の開発など、各々が地域のために活動しています。大原さんはみんなの活動環境を整えながら、任期後を見据えたサポートを行っています。

高橋係長:「大原さんが門戸を開いてくれた。あとはそれを如何に活用できるかだと思う。協力隊の皆さんが洋野町に来て良かったな〜と思ってくれれば、それが一番。今までのように役場在籍スタイルだと、 “やりたいこと” ではなく “やって欲しいこと” ばかりになってしまう。fumotoがあることで可能性を広げてもらった部分は大きいですね」

役場内で募集したい項目に関しては各課にヒアリングをし、来た人が任期後も続けていける体制にあるのかも含めて審査しているそうです。高齢化や担い手不足を補うだけではいけない。それを理解してもらう必要があるといいます。

大原さん:「当時色々見ていた中で、これから民間主体で協力隊を受け入れる仕組みが増えていく予感はしていたので、いち早くやりたい気持ちはありました」

高橋係長:「そうだね。これから大原さんのような、マネジメントをしてくれる人がそれぞれの市町村で増えてくれればいいなと思う。それと同時に、大原さんには、今後協力隊の制度が無くなったとしてもfumotoを廻せる柱となるものを見つけて欲しいと思っています。今回の関係人口増加のプロジェクトや、今在籍している協力隊の皆さんの活動を通じて、その何かを探っていってもらえたらと。
あとは、fumotoが任期終了後に町に残るためのツールのひとつになることも期待しています。大原さんの右腕になる人が1人2人出てきてもいいんじゃないかな」

強い繋がりを持った関係が、これからの地方をつくっていく上で大事なものになっていくのではないかと考えていると語る高橋係長。大人が楽しそうにしていることで子どもたちも地域に愛着を持つだろうといいます。
どこの地方でも課題になっている、若い人の “やりたい” 仕事がないという現状を、打破するモデルケースになることを願っているそうです。

最後に、高橋係長はこんな夢を語ってくれました。

高橋係長:「fumotoの事務所に人がたくさん集まって、町の賑わいの中心になる。そこにまた地域の人が集まってきて……そんな景色を見たいなぁと思うね」

大原さん:「洋野町のような小さな町では、移住や観光の支援を役場が担っていることが多いですが、民間で行った方がじっくりと深く向き合えることもあると思っています。何より自由度も高い。地域や社会に求められていることを、行政と民間と共に手を取り合って行っていく。fumotoはそういった存在でありたいと思っています。
将来的には分かりませんが、今はとにかく洋野町に特化していきたいです。小さな町でやってるからこその面白さと強さがあると思うんです。他の町の真似ではなく、この町で自分が必要と思うことをやっていきたい」

行政と民間の間のような存在。暮らしの延長にある仕事。場所にとらわれない生き方。
私たちは今、境界のないグラデーション=段階的変化の世界で生きつつあるのかもしれません。
大原さんの想いに様々な人が加わり広がっていく。洋野町も今まさにグラデーションの中にあるのではないでしょうか。

 

大原 圭太郎(おおはら けいたろう)
1980年生まれ。宮城県仙台市出身。
2016年10月洋野町地域おこし協力隊着任。
3年の任期を経て2019年9月一般社団法人fumotoを設立し、代表理事に就任。
最近のマイブームは5歳の娘さんとプロゴルファー猿のアニメを見ること。

高橋 勝利(たかはし かつとし)
1974年生まれ。洋野町中野地区出身。
高校卒業後の1993年種市町役場(現:洋野町役場)入庁。建設課、総務課、教育委員会等を経て、
2017年度からは企画課企画政策係長として地域おこし協力隊の担当責任者となる。
全日本野球協会アマチュア野球公認国際審判員の資格も持ち、休日は各地の大会を飛び回る日々。
愛読書は野球審判員マニュアル。
最近は今更ながら(笑)就寝前に鬼滅の刃のアニメを見ることにハマっている。

※役職は2021年3月現在のものです。
※地域おこし協力隊とは……都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地盤産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組み。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期は概ね1年以上、3年未満。(総務省HPより)

 

(2021/02/05 取材 後藤暢子)