ひろのの栞

【特集】「ひろのを紐解き、紐付ける」(後編)

「ひろのを紐解き、紐付ける」後編では、『ゆい』『つぎ』それぞれの冊子の中でどのようにひろのを紐解き紐付けていったのか、製作中から完成後の裏話も含めて座談会形式でお伝えしていきます。それでは、引き続きお楽しみください。

なぜ今、「ひろのを紐解き、紐付ける」のか

小向:全体のコンセプトが決まってからは、まずは私と大原さんで「ゆい」のリサーチを進める期間が2か月くらいありましたよね。具体的には、この土地について色々と詳しい方々に色々話を聞いたり、図書館で文献調査、資料収集をしたり。調査を重ねていくと、この土地で長らく大切にされてきた色んなものと、それを地道に記録して伝え残そうとして来た人たちに感情移入せずにはいられなくなって来て。それらのほとんどが日の目をみてないのは悔しいし、今のうちに光を当てないと、この土地には振り返るべきものもそれを知る人も術も全部なくなっちゃうのはまずいなって言うのは強く感じてましたよね。だからこそ、若い世代にも手に取ってもらえる冊子にしたかったし、それでいて懐古主義のような見せ方もなんか違う……。過去現在未来と言葉にするのは簡単だけど、実際のところ明確には分けられないグラデーションの中に自分たちがいることを伝えたかった。そんな中で編集側にいた私たち3人は、川崎さんと原さんのデザインの力の重要さっていうのをより一層感じましたよね。

大原:冊子を作り始める前にも図書館から古い写真を借してもらったことがあって、自分にとってはなぜか新鮮な感じがした。その写真を何かに使えたらっていうのはずっとあって。で、ずっと続いてきた地域の営みの中で、今の自分たちがいる文脈というか、この土地がどういう場所なのかっていうのは自分も知りたかったし、自分を含め昔を知らないまま今を生きてる人にも知ってもらえたらいいなあ…みたいなことは思ってたんだよね。そして、そのテーマをここに住んでいる二人に色々感じながらデザインして欲しいっていうのも。

小向:一方でそれぞれの写真っていうのは、プロの写真家が撮影したものが全てでもなく、日常的な主題がメインなので、「魅力的かつ本当に伝えたいことを伝えられる表現」にできるかっていうのはホントに最後まで全員が悩んだし苦しかったところでしたね。

 

「ゆい」編

小向:やっとエンジン全開で進められるようになったのって、結局1月末とかでしたもんね。その頃には、地域の中での人のつながり、この土地で生きてきた人たちの歩みを表現するモチーフがページ内にあしらわれていて。それを見た時、2冊のコンセプトと視覚的表現が一致した確信がありました。でもまだこの時期には1冊目の「ゆい」にしか手がついてなかったんですよ。最初に5人で集まったのが9月だったので、かれこれ4,5ヶ月も「つぎ」が宙ぶらりんで、担当の千葉さんが手持無沙汰みたいな感じで。

千葉:そうですね。でも、「つぎ」の方でこうしたいっていうのは大まかにはあったから、「ゆい」ができるのを静かに待ちながら、写真集めとかできることはやってたかなって感じでしたね。

小向:「つぎ」に使った写真には、千葉さんや大原さんたちが撮り溜めてきた写真もかなり使われていますよね。そういう面で「ゆい」の方は、企画が持ち上がってからリサーチを始めたので、誌面が出来ていく過程で「これが足りない!」「やっぱりこれも!」みたいなのが出てきちゃって。入稿寸前に追加ヒアリングしまくりでした。最初からまずいなあとは思ってたんですけど、中野地区の写真や資料、当時についての語りが全然なくて。でもそれは、その土地に語るべき歴史や歩みがないということではなくて、まだ見つけられてないだけだよなと考え直して。他の地区とは違うリサーチの仕方をしたり、図書館の木村さんに中野地区に詳しい方を紹介してもらったり。そういう経緯もあったので、そこのページは個人的に気に入っています。

原:最後まで粘って集めてましたもんね。

小向:中野地区に限らずですが、粘り強くリサーチを進めていく「紐解く」プロセスの中で、今に続く生業との関連性や暮らしと生業、そして時々の祭りの関係性みたいなところも見えてきたし、今と昔、ある地区とある地区のちょっとずつ似ていてちょっとずつ違う部分を見出せたのは「紐付ける」に繋がったので結果オーライ…ですかね(笑)

 

「つぎ」編

小向:まず「つぎ」っていうなんともわかりづらいタイトルについてですけど。今この時代って「ゆいこ」の時代から引き継がれてきたものもあれば、連綿と続いてきた営みの中で新しく生まれた文化や生業もある。それから、冊子の発行や関連する活動を通して、一見繋がっていないように見える生業や人々の営みの結節点を可視化することによって、いろんなレイヤー、スケールでの人や生業のつながりを少しずつ取り戻せたらなーっていうか、「つぎはぎ」みたいな形で新たな関係性を生み出したいって願いを込めましたよね。
「つぎ」の特徴は、町内各地区の特徴というか色みたいなものをほぐしながら伝えていること。そもそも、「つぎ」の内容のアイディアの根源ってなんだったんですか?

千葉:「ゆい」では時の流れに沿ってページが進むけど、「つぎ」で使う内容には時間的には厚みがないので、時系列ではなく地区ごとに展開していく方が良いかなーって。そのきっかけは、去年の12月に開催した「ひろのの栞」のツアーでした。ウェブ版の「ひろのの栞」でインタビューした人たちに実際に話を聞きに行ったり、体験したりっていう内容だったんですけど。記事を読むだけでは平面的でしかない町の情報も、実際にその場所を訪れたり、人の声や話し方に触れたりすることで立体的になっていくことが参加者からの声でわかったんですよね。私たちもそうだけど、他の地域の土地勘っていうか地区ごとの空気感とか風景の微妙な違いってわかんないじゃないですか。

小向:たしかに。

ツアーの様子

千葉:あと、自分は埼玉でずっと育ったんですけど、伝統文化を感じる機会が少なかったんですよね。この辺って、例えば角の浜の駒踊り、大野ではナニャドヤラっていう伝統芸能が色んな地区にあって、小学生から触れる機会がある。それは自分にとっては新鮮だったし、これから大事にしていくためにもぜひ伝えないとなって。あとは、自分の普段の活動の中で会う人たちって、地元が好きだったり、地元で精力的に活動されている方が多いので、「人」の姿にもフォーカスしたかった。それから、ちょっと不利な条件の中でも、工夫しながらその土地ならではの生業を続けてきたことも伝えたかったですね。そういうものを紹介していったら、実際足を運ぶのが難しい人にでも、その地区の色というか雰囲気がリアルに伝わるのではないかと思って、「つぎ」では、「場所を辿る」を主題にしました。

小向:今後私たちがフィールドワークとかツアーをするときにも使いたいですね。そしたら、土をきちんと踏みしめながら、本当の意味で「場所を辿る」っていうのができるのかな。色々悩んだこともあったけど、最終的にそういう内容にできましたよね。

千葉:ありがとうございます。使える写真の枚数やページ数の関係で削ってしまった部分もあるんでが、あくまでも「普通」の「日常的な」光景っていうのを選ぶときに重視しました。さっき「ゆい」の話でもあったように、写真に特別性があるとは言えないんですけど、語れる話のある写真というか。

小向:ポジティブな意味での「普通」ですね。

千葉:洋野町に住み始めた頃に私たちが最初感動したものとか、そういう目線で町を伝えたいなと思って載せるものを選んだので、逆にもっとこういうのもあるよっていうのがあれば是非町の人から聞きたいんですよね。

小向:そこら辺の「普通」や「日常」に対する想いの部分は、2冊のプロローグやエピローグを読んでもらえると分かりますよね。「つぎ」のプロローグはめちゃくちゃ悩んで、入稿直前は大原さんと3人で23時くらいまで残りましたもんね(笑)

千葉:でもそれでまとまった気がしてます(笑)場所とか人を辿るっていう「つぎ」のテーマと「普通」のシーンを捉えているっていうのをうまい具合に伝える必要があったんですよね。逆にエピローグは本当にスッときまって。エピローグも自分が大切にしている部分で、自分自身が伝えたかったことでもあるし、ここで「ひろのを紐解き、紐付ける」に帰ってくると言うか。二つ合わせたエピローグでもあるなと思っています。

結びにかえて

小向:この2冊、色んな方の協力や善意、そういうものにとてつもなく助けられましたね。「ゆい」の方で言うと、仕事あるいはライフワークとして何十年も地道に写真や資料を収集したり、記録したりしてきてくれた人がいる。「つぎ」の方もそうですけど、そういうものを「世に出す、伝える」っていうのが今回の私たちの仕事って言うとしっくりきますかね?

大原:うん。東大野さんって方に本を2人で渡しに行った時、静かにページをめくりながら頷いてくれてて。あと、「当時写真を集めに回った時のことを思いだすなあ」みたいなことを言ってくれてね。本当に多くの家から写真を集めたり、いろんな記録を残している方で。「ありがとうございます」ってすごい喜んでくれたんだけど、小向さんが「これを形にできたのは、長い時間をかけて大切に風土と向き合ってる方がいるからなんですよ」みたいな話をしてて。

小向:そうですね。そういう「土地の人」の顔を思い浮かべながら、ぜひ読んでいただきたいです。正確で客観的な歴史というか記録っていうのはキャプションで示している一方で、「ゆい」の多くのページでは、「思い出話」や「昔話」を想起させるような「語り手」の姿がありますので。

原:歴史書とか教科書って、客観的で正確な分、そこに人のにおいとか空気を感じづらい。だから、写真の周縁のイメージまでは湧きづらかったりするけど、今回はちゃんとそこを感じられるものになったかなと思って。「つぎ」の方もインタビューが入ってるから、今洋野で暮らしている人の空気を感じられるところがよかったなと思いました。

大原:あと別の方に渡しに行った際には、当時を懐かしみながらページをめくってくれて、何人かで談笑している場面にも立ち会えて。この2冊もそういうコミュニケーションのきっかけになることも、実際にあるんだな~と。

千葉:「ゆい」編の時代にはまだ生まれていなかった人でも、「自分の親戚がここに写ってる」とか「こんなでっかい木、今ではとれないよな」っていう風に、写真を見ながら言ってくれるんですよ。あとは、渡すことによってうちらが知らないことを知ってるローカルな人に話を聞けるのは本当に面白いです。こう言う声はきちんと残しておいて、また別の機会に伝えていきたいですね。

小向:そうですね。冊子を通したコミュニケーションというか、完成したこの2冊をどのように展開していくかっていうのも楽しみですよね。何か、個人的なエピソードは他にもありますか?

川崎:個人的に気に入ってる部分が実はあって(笑)冊子の最後の写真、2冊とも今の僕たちの事務所の目の前の道路の写真なんですけど。「ゆい」の方に写っている車のナンバーが「2020」。2020年って、自分が洋野町に来た年なんですよね。だから、そこからまた始まっていくっていう感じに思えて、そこが好きです。

 

小向:裏表紙ですよね。違う年代の同じ場所の写真を使ってて、まちの表情の移り変わりがなんとなくわかるし、好きなページではあったけど、そんな楽しみ方があるんですね(笑)でも、川崎さんみたいに、自分の思い出とかと重ねながら読んでもらえる方が出てきたら本当に嬉しいですよね。

 

原:今回扱った内容って、大衆向けとは言えないかもしれないけど、ここに住んでいる若い人とかがこういったものを通して、良いイメージというか新しい視点を持ってくれたら一番嬉しいです。内側からそういう風に元気になっていったらいいなって思います。

小向:そもそも「ひろのの栞」は、関係人口を増やそうっていう事業なんですけど、その土壌をどうやって作っていくかを私たちは考えようとしていて、今回の冊子はそういう趣旨もあるんですよね。大原さんは、素材や写真選び、取材にも関わりながら全体的な監修を務めていたわけですが、「ひろのの栞」の中でこの冊子を発行するモチベーションというか発行の意義についてはどう考えていましたか。

大原:地域おこし協力隊としてこの町に暮らし始めた頃っていうのは、新しいことを自分でやっていかなきゃみたいな意識があったけど、結構反省したんだよね。過去に何かしらやろうと取り組んできた人たちを知る中で、それを知らずに「もっとこんなこともできるじゃん?」って思ってたのが恥ずかしいなと思って。町について皆がどういう風に取り組んできたかとか、どういう昔ながらの営みが今に続いてるのかみたいなことを自分自身がもっと知りたいのもあったし、それを共有できる機会があればいいなって思ってたのがちょうど今回の企画に繋がったのかなって。時間はかかったし、プロセスはすごい大変だったけど、このメンバーだったからこの仕上がりになったっていう感じはしてて、それがすごいよかった。あとは、役場から頼まれてる事業で、向こうもまさかこういうのを作ってくるとは多分思ってなかっただろうから。そこの寛容さにもありがたいなと。うん、長く見られるものを残せたのかなと思ってますね。

小向:いい感じに締まりましたね(笑)では、ここまでにしましょうか。みなさん、ありがとうございました。本当にお疲れ様でした!

 

前編、後編とここまでお読みいただきありがとうございました!2冊の発行にあたってお世話になった方の名前を全てあげることはできませんが、さまざまな関わりの中で私たちのプロジェクトを応援してくださったみなさま、本当にありがとうございました。最後になりますが、私たちが理念を持ち、伝えたいことを形あるものとして世に出すことができたのは、長年熱心に郷土史の記録や研究、民俗資料の収集を行って来られた方々の尽力の賜物に他なりません。今回、とりわけ「ゆい」編で使用した写真はそのような方々や町の図書館によって根気強く収集、保管されて来たものです。そして、今日においても、土地に根を張り、生業を暮らしを営まれている方々がいてこそ、今この時代にも光を当てることができました。また、発行趣旨を深く理解し、印刷・製本技術を惜しみなくお貸しいただいた吉田印刷のみなさまにもこの場を借りて御礼申し上げます。

この2冊がこのまち、あるいは洋野町に限らずみなさまが大切に思う場所に想いを馳せるきっかけになりましたら、私どもにとてそれ以上に嬉しいことはありません。ぜひ、お手にとってご覧いただき、その感想や質問を私たちにお寄せいただけると幸いです。

(2021/04/14 記事 小向光)

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