ひろのの栞

【イベントレポート】ローカル乳業メーカーのチャレンジ 〜地域資源を磨き産業の未来を築く〜

1月20日にオンラインイベント「ローカル乳業メーカーのチャレンジ 〜地域資源を磨き産業の未来を築く〜」を開催しました。洋野町大野地区にある「おおのミルク工房」は岩手久慈広域(久慈市・洋野町・野田村・普代村)で唯一の牛乳・乳製品工場です。この地域の酪農家たちが「自分達が愛情込めて育てた牛から搾った乳で自分達が自宅で楽しんでいる『味』を皆にも飲んでもらいたい」という「ゆめ」を込めた牛乳・ヨーグルトなどの乳製品をお届けしています。また、先日岩手県で行われた第3回全国ヨーグルトサミットのヨーグル党大選挙では、「おおのミルク村のむヨーグルト」が加糖部門で全国1位に選ばれました。

今回のゲストはおおのミルク工房の専務取締役である浅水巧美さん。ミルク工房設立の背景から商品へのこだわり、地域にあるものの魅力を伝えたいという熱い想いについても伺いました。

今回は、おおのミルク工房の「おためしセット」が付いてくる特典付きチケットもあり、ご購入いただいた方にはおおのミルク工房の乳製品をお楽しみいただきました。

 

おおのミルク工房ができるまで

おおのミルク工房は当初、農協さんが運営をしていましたが、様々な理由から撤退することになりました。しかし洋野地区は岩手県の中でも酪農が盛んな地域な上、「地域の明かりを消すな」という地元の方々の声もあり、2005年に民間の会社を立ち上げ創業を開始しました。会社を立ち上げた際のコンセプトが「地元の方々に愛される商品」ということもあり、学校給食や量販店、産直施設に乳製品をお届けするという「地元に軸足を置く」という取り組みをされている会社です。

浅水さんは当時農協の一員としてミルク工房に関わっていました。その後1年間、地元の酪農家さんと関わったり、ミルク工房の今後に関する会議に出席したりと活動をされていました。そして初代の社長に「新しいミルク工房で働きたい」という旨をお伝えしたそう。社長さんは「この会社で骨を埋める覚悟があるなら一緒に働こう」と浅水さんに仰ったそうで、その言葉を聞いた浅水さんは農協を辞職し、ミルク工房で働くことを決めました。

地元の方に愛される秘訣

民間の会社を作る際に「飲んでほしい、食べてほしい」というような商品を作りたいというお話になったことがはじまりだそうです。以前は量販店などの意見を伺い、酪農家さんの意見が反映されていない状況でした。そこで酪農家さんと試行錯誤を繰り返し、30〜40通りのサンプルを作り老若男女の意見を伺い、営業に反映させました。

また「ゆめ」という商品名について、「地元の子どもたちに飲んでもらって美味しいなと言われるのが酪農家にとってやりがいだし『ゆめ』だよね」という声がふと上がり、その『ゆめ』を取り入れることになりました。多くの乳製品には地域の名前が入りますが、ミルク工房の乳製品には「大野ミルク村」という架空の地名を使用しています。地域の多くの酪農家で集まって乳製品を作るという取り組みはミルク工房ならではかと思います。

また、おおのミルク工房の乳製品にまつわるこんなエピソードも。
ミルク工房の機械が壊れて牛乳が作れず、学校給食に出せなかった日がありました。代わりに他のメーカーさんの牛乳を出すと、「今日の牛乳は違う牛乳だった」と言うお子さんがいたそうです。いつもと違う牛乳に気づくお子さんが何人もいたそうで、ゆめ牛乳が子どもたちからも愛されていることがわかるエピソードです。

また先日のヨーグルトサミットでのエピソードも上げてくださいました。今回のサミットのテーマが「繋がる」であったことから、改めて酪農家さんの作業風景をご覧になったそうです。
グランプリ獲得後、若い酪農家さんに「あなたたちはおおのミルク工房の誇りです」と伝えると、若い酪農家さんから「おおのミルク工房が自分達にとっての誇りです」と言われたそうです。若い酪農家さんからも慕われており、改めて地元との繋がりを大切にされていることが伝わります。

 

ミルク工房内の製造過程について

ミルク工房は牛乳の殺菌方法にこだわっており、85度20分の高温長時間保持式殺菌を行なっています。この製法から風味や甘みを引き出すことができます。
製造時には機械で温度などを測りますが、最終的に人の舌で判断をしているそうです。自然に左右されるため機械で均一に測るのではなく、その時期やその場ごとで判断をするというこだわりがあります。

また夏や冬で味が変わっているそうです。夏は牛も多く水を飲むことから脂肪分が低くなり味が薄くなる一方で、冬は夏よりも味が濃くなります。夏と冬とで味が違うことも自然であるという証拠になっています。

 

地域とのかかわり

小学校でのバター作り体験会や高校生との商品開発、町内企業とのコラボ商品など、幅広く地域と関わっています。乳製品をもっと食べて欲しいという思いで小学生と関わったり、高校生の自由な発想を活かしたいという思いで地域の方々と関わっているそうです。2月の末には高校生と一緒に考えた商品が実際に発売されます。

また牛乳は年々消費量が減っており、子どもたちの人数も事業を開始した年に比べ85%ほどに減っています。その中で今後事業を続けるために一次産業としてだけでなく、サブスクなど立ち上げることを考えているそうです。「地元」をコンセプトに材料や製造、発信まで、すべて地元に基盤を置くことで進めていく予定です。乳製品以外とのコラボも進めるなど、今後どのような事業が地域から始まるのか楽しみです。

今回は神奈川や福岡、島根など様々な場所からご参加いただき、ミルク工房の店舗以外に商品を購入できる方法はありますかとの質問がありました。
銀座プラザや豊洲のららぽーとで商品の取り扱いがありますが、オンラインストアで購入いただくのがオススメとのことでした。

のむヨーグルトの製造についての質問もありました。
ボトル型とパウチ型で製造方法が違うとのことでしたが、使っている乳酸菌などの違いからボトル型は前発酵、パウチ型は後発酵にするなどの製造の違いを用いているそうです。

また行政や農協との関わりについての質問において、浅水さんは補助金目的で関わることはしたくない、あくまでミルク工房の意向が尊重されるような関係を保ちたいと仰っていました。自力でできることは自力でやるという、地元や酪農家の声を大切に活動されているようです。

事後アンケートでは、「浅水さんのお人柄と地域や未来に対する想いが伝わってきました。高校生との商品開発などの取り組みも印象的でした」「一次産業の重要(元気)さがわかった」「地元の消費を大事にしている姿勢が素晴らしい」「ミルク工房のストーリーを知るとより商品が魅力的に感じらました」という感想をいただきました。

今回はミルク工房が大野にできるまでの流れや浅水さんの地元に対する想い、現在の取り組みや製造方法まで幅広くお話をお伺いしました。

地元に軸を置いて取り組まれているミルク工房から、今後どのような取り組みが生まれるのか楽しみです。

 

ゲスト
浅水巧美さん
1969年生まれ。岩手県久慈市出身。
高校卒業後、地元企業に就職。転職で別の企業に就職するも13年で退職して半年ほど遊び歩く。
2002年農業協同組合に入組、酪農家との繋がりを持つことに。
2005年「株式会社おおのミルク工房」立ち上げに伴い農協を退職。
事業運営の中枢を担い、製造、経理、労務、営業など経営全体の責任者として活動。
地元の仲間からは「岩手で一番、牛乳に熱い男」と呼ばれている。洋野町で働きはじめて今年で18年目。

ヨーグルトサミットの動画にも出演されていますので、ぜひご覧ください。