ひろのの栞

地元のいい海産物を届ける

洋野町種市八木地区にある「斎藤商店」は、町内でも長い歴史を持つ鮮魚小売店です。夏に旬を迎えるウニをはじめ、年間を通してさまざまな商品を扱っており、町外の方からも人気があります。今回は、地元にUターンして働いている2代目の斎藤信行さんにお話を伺いました。

家族で続けていく

斎藤商店は、漁師をしていた斎藤さんのお父さんが60年ほど前にはじめました。洋野町のお隣、久慈市の個人商店や仕出し屋、結婚式場などに魚を卸していました。久慈市への卸しが落ち着いた30年前に、店舗を構えたそうです。当時、この八木地区には商店も少なかったといいます。

斎藤さん:「ここの店は1回火事になったんです。建ってすぐの頃だから30年くらい前に。それがきっかけで自分も地元に帰ってきて、店を一緒にやろうと思ったんです」

高校を卒業後、横浜や東京で働いていた斎藤さん。切り身加工の会社で5年、築地で3年、水産関係の仕事をしていました。実家が鮮魚店だったこともありその仕事を選びましたが、当時は家業を手伝おうとは思っていませんでした。

斎藤さん:「東京でそれなりに生活できていたので、地元に戻ってくるつもりはありませんでした。親から帰ってこいと言われたこともなくて。きっかけはやっぱり火事だったのかなと」

現在はお父さんが社長で、信行さん、奥さん、妹、弟で店を経営しています。80歳を超えたお父さんも現役で働いています。

弟さんも斎藤さんと同じく、大学進学を機に上京して水産漁業関係の職に就きました。デパートの食品売場で働いて、加工などもできるようになりました。

斎藤さん:「昔は家で魚を捌ける人も多かったから、魚を生で売っていましたが、弟がそういうこともできたので、刺身にして販売したりということをはじめました。弟が戻ってきたことで商売の幅が広がりましたね」

弟さんも20年ほど前に地元に戻り、家業を手伝っています。

斎藤さん:「家族でやっている店なので、この人数で5年、10年って続けていけたらそれでいいと思っています」

家族だけで営むからこそ、小さくても確実に続いてきたこれまでの道のりを感じることができます。

 

子どもの頃から店を手伝う

朝は3時に起き、八戸の市場に仕入れに向かう斎藤さん。子どもの頃から家の手伝いをしており、学校が休みの日はホヤの箱詰めや配達などを行っていました。

斎藤さん:「朝は2時か3時に起きて、親父と一緒に久慈や八戸の仕入れに行っていました。休みの日とかはほぼ毎日行ってた」

両親に頼まれたわけではなく、ただ楽しかったからやっていたといいます。兄弟の中でも斎藤さんは1番手伝いをしたとか。高校生になってからは新聞配達も行い、両親からも頼りにされていました。

斎藤さん:「家の商売が忙しくて……学校行事に親が来てくれたことは少なかったし、自分も子どもの行事にはなかなか行くことができなかった」

斎藤さん自身は子どもに手伝いをさせることはせず、好きなことに取り組めるようサポートしていました。

美味しいウニを届ける

斎藤商店の看板商品である生ウニ。夏には久慈市や八戸市からのお客さんが多く訪れます。

斎藤さん:「普段から鮮度には気をつけて売っていますからね。小さい店なので自分たちからアピールするとかはないし。買ってくれた人がどんどん広げてくれるんです」

夏は休む時間もないくらい作業に追われることも。毎年注文してくれる人が多く、そこから広がっていき、九州からも購入してくれる人がいるそうです。一方で、注文は電話とFAXでしか受け付けていません。

斎藤さん:「ネット販売なども始めたほうがいいのかもしれませんが、ウニにしてもたくさん売っているところがあるでしょう。何十社、何百社とある中で自分たちがどこまでできるのか……今まで通り口コミで、自分たちができる範囲で広げていくほうがいいのかな」

町外から斎藤商店のウニを買いたいという人が増えているといいます。種市のウニは、値段は高いですが質がいいと評判です。高いなりにお客さんに届けるしかないのですが、若い人は買いにくいため、購入者の年齢層が高いのが現状です。これからは若い人にも買ってもらえるようにしていきたいと斎藤さんは考えています。また、加工品である塩ウニにはこんなこだわりが。

斎藤さん:「塩ウニは甘みが出はじめた最盛期の7月頃のウニを仕入れて作っています。多少高くても、鮮度や品質にこだわった製品づくりを心がけているのでお客さんも買ってくれるんだと思います」

洋野町種市の特産品であるウニを、さまざまな方法で届けています。

 

避けては通れない課題

ここ数年、冠婚葬祭なども減っていることで卸す量が減っていることが課題だといいます。生の魚だけではなく、塩ウニ、むきホヤなどの加工品も販売していますが、ここ5年〜10年は水揚げ量も少なく値段も高いため、加工品を作れる量が減ってきています。

斎藤さん:「魚が年々減っているので、こういう商売を続けていくのは難しいですね」

少ない魚を、市場でいろいろな業者が取り合う状況が続いているそうです。洋野町の特産品であるウニやアワビの水揚げ量も減っており、2022年は前年の2割増しくらいの値段に。

斎藤さん:「今年はウニも1瓶4,000円くらいで販売しなければいけないときもあって。そうすると今まで5本、10本買ってくれた人も買う本数を減らさざるをえないんです」

また、水温が上昇している影響でタチウオやサワラなど、暖かい場所に生息していた魚の漁獲量が東北でも増えています。もともと東北で獲れていたものはさらに北に行ってしまい、北海道から仕入れることも。水産業全体が厳しい状況に置かれており、加工業も大変だと感じています。

斎藤さん:「今の状況は震災のときより厳しいと思います。震災後の復旧は大変だったけど魚は獲れていたのでまだ頑張ろうと思えたけど、今は1年先も見えないですね」

特にここ2,3年でさらに厳しい状況になったといいます。温暖化の影響は水産業に大きな打撃となっています。

斎藤さん:「もっと水揚げがあって単価が下がれば、いろいろなもので加工品を作ることができるんですけどね……」

環境もそうですが、地域も少しずつ変化していると感じています。斎藤さんが子どもの頃、夏は友だちと八木の駅前に集まって海に行っていたそうです。魚やウニ、ツブ貝などを取って、焼いて食べていたのが楽しかったと振り返ります。

斎藤さん:「アルミ缶を半分に切って中に貝とか入れて焼いて。ジャガイモとかも持ってきて、海で洗えば塩味がついて(笑)それが美味いんだ。家にいることが無いくらい外で遊んでいました」

昔は砂浜も多くありましたが、現在では整備されてしまいだいぶ減ったといいます。その影響もあり、外で遊ぶ子どもが少ないことに寂しさを感じています。

変化していくなかで昔から続けてきたことを続けていく難しさ。特に水産業は自然と共生しながら成り立っているため、人の力ではどうにもできないこともあります。そのなかでも地元で獲れた海産物にこだわり、人づてでその魅力が広がっていく……斎藤商店はこれからも小さくても確実に、その歩みを進めていきます。

 

斎藤 信行(さいとう のぶゆき)
1966年洋野町八木地区出身。有限会社斎藤商店の2代目。
八戸市の高校を卒業後、横浜の水産加工会社に就職。築地で働いた後、地元に戻ってくる。
趣味は温泉巡りで、仕事が忙しくない時期は日帰りで毎週のように行っている。秋田県の乳頭温泉がおすすめ。

 

(2022/9/26 取材 千葉桃子 写真 大原圭太郎)