ひろのの栞

【特集】「ひろのを紐解き、紐付ける」(前編)

まちの案内状あるいは旅の栞として、町内外の方々に親しんでいただいている「ひろのとつながるみなさまへ」の発行から約一年、「本を読むように、洋野の暮らしと人をもっと知る」をコンセプトに、私たちが運営しているローカルメディア「ひろのの栞」から、「ゆい」「つぎ」の2冊を発行しました。この2冊では、「ひろのを紐解き紐付ける」を共通コンセプトに据え、地域史の研究や継承に取り組んでいる方々や地に根を張り生業を営んでいる方々からの協力を得ながら、私たちが企画・編集・デザインまでを手がけました。今回は、前編・後編に渡り、「ゆい」と「つぎ」の編集者目線で、発行の趣旨や理念、デザインの意図、さらに制作の中での出会いについてもお伝えしていきます。

洋野町は、2006年に旧種市町と旧大野村が合併し発足した人口15000人ほどの小さな町。町の東部は太平洋に面し、西部には山間地帯が広がっています。県庁所在地の盛岡へは車で2時間ほど、特産品には、うにやホヤなどの海産物やしいたけ、木炭、木工品などが挙げられます。
「ひろのの栞」は、関係人口増加プロジェクトとして町から委託を受けて実施しているプロジェクトの一つで、移住や観光の支援、ウェブメディアの運営やオンラインイベントの開催なども行っており、この4月でプロジェクトは3年目を迎えました。

初年度には、まちの案内状あるいは旅の栞でもある「ひろのとつながるみなさまへ」を発行し、周辺市町村の公共施設や店舗を中心に設置し、多くの方々に親しんでいただきました。ありがたいことに、「ひろのとつながるみなさまへ」を見て私たちの事務所を訪れてくれた方も少なくありません。一冊目の冊子が広く受け入れられ、冊子を通して人々とのコミュニケーションが生まれているのを実感し始めていた頃、次の冊子の企画が立ち上がりました。その中で、「ぼんやりとやりたいと思いつつもまだできていないことがあるとするなら、この企画の中でやってみるのはどうですか?」と、チームのデザイナーからの問いかけがあり、その一言をきっかけにプロジェクトは動き始めました。

『今』と地続きの『昔』に光を当てる

「ぼんやりとやりたいと思いつつもまだできていなかったこと」として、チームの編集陣が真っ先に思い浮かんだのが、「『今』と地続きの『昔』に光を当てる」こと。ある土地の「今」を知るために、「今」とつながる「過去」を知り、「未来」に思いを馳せるために、その土地の「今」を知る。このような行為が、私たちを含めこれからの時代を生きる人々には必要なのではないかという思いがプロジェクトの根底にありました。結果的に、「ゆい」編では、「ゆいこ」と呼ばれる地域内での人々のつながりがあった時代の暮らしや生業、風景を年代を追うように、「つぎ」編では、主に現在の洋野町の様子を、場所を辿るように紹介する冊子が生まれました。タイトルからは誌面の内容を想像しづらい2冊ですが、「つぎ」と言うタイトルは、「次 = ポスト “ゆいこ”」「継ぎ=ゆいの時代から引き継がれてきたもの ( あるいは、連綿と続く営みの中で新しく生まれたもの )」という意味合いを持っています。また、この2冊を通して、一見繋がっていないように見える生業や人々の営みの結節点を可視化することによって、様々なスケールやレイヤーでのつながりを少しずつ取り戻し、ひいては、「つぎはぎ」のような形で新たな関係性を生み出したいという私たちの思いも込めました。

2冊ともに、扱う写真や題材は決して特別なものではなく、まちの人にとっては「ふつう」だった(あるいは今でも「ふつう」の)生業や暮らし、風景。このような題材をどのように表現すれば若い世代にも興味を持ってもらえるか、また、読み手の感情を揺さぶるにはどうしたら良いのか。そして、伝えたいことを伝えられる2冊になったのか……。これらは、私たちが最後まで向き合ってきた課題でもあり、2冊が完成した今でも不安な気持ちが残っているのが正直なところです。私たちの事務所を訪れてくださる方には、できるだけ発行の経緯や理念の部分をお伝えしながら2冊を手渡すようにしていますが、とりわけデザインについてはわかりやすく伝えることが難しく、なんとか機会を作れないものかと少なからず悩んでいました。そのような経緯もあり、今回の記事では冊子の装丁を手がけた原さんと川崎さんにもお話をしてもらいました。

土地の営みに光を当てるデザイン

「最終的なデザインが決まるまでの経緯って言うのは色々あったし、編集側からの要望に応えるのには本当に苦労しました。その中でも、写真を視覚的にしっかり見せつつ、それに付随する『話し言葉』って言うのかな?それが読み手に伝わるようにって言う2点はより意識しました」と原さん。

とりわけ「ゆい」編では、誌面で写真をしっかり見せることによって、レンズが捉えた当時の一般的な風景として伝えつつ、その写真に付随する個人の記憶や語りを人間の温度感と共に読み手に届けてほしいと言うのは編集側の要望でした。ただ、表紙も誌面も、その最終的なデザインについて具体的な案を伝えていたわけではなく、数え切れない試行錯誤の中で2人が提案してくれたアイデアです。

人や地域の有機的な軌跡を表現した誌面のデザイン。2冊に共通して施した。

ページのほとんどに施されているグレーと白で構成される太い線のようなモチーフは、目には見えづらいけど確かにある/あったもの……。つまり、土地の中での様々な関係性や物語の連続性、それらが過去から現在、未来に紐付いてることを表しています。白線が揺らいでいるのは、「システマチックではなく起伏のある人生や人間の軌跡」であり、そのモチーフの上に写真、さらに当時を知る人物が語る言葉が重ねられることにも意味があり、その上で、表紙には「本編ページの断面図をイメージしたコラージュを置いた」と言います。

「『ゆい』は時間の流れに沿ってページが進んで、『つぎ』は場所を軸にページが進んでいく。地続きの過去現在未来みたいな意味もあると思うんですけど、『ゆい』で見てきた洋野町を、『つぎ』では実際の場所に目を向けて立体的に見るっていう風にも捉えられます。そういう意味で2冊1組にした要素が生きてきますよね。表紙のコラージュも意味のあるものに思えます」と川崎さん。

どの時期、どの場所にも歴史や人の歩みは存在していたこと、そして、その歴史や人の歩みが今この時にも続いていることは、プロジェクトの初期からメンバー一同が大切にしてきた考え方です。表紙のコラージュは、バラバラに存在していた写真とそれに付随する歴史や個人の記憶を紐解きながら、それらの関係性を見出す、紐付けていく編集のプロセスとも重なっているように感じられます。町のいろんな風景や生業は、一見そのつながりが分かりづらく、時には無関係に見えがちですが、実はどこかで繋がっていることが多いとこの冊子の発行を通して気づかされました。

「ひろのを紐解き、紐付ける」後編では、『ゆい』『つぎ』それぞれの冊子の中でどのようにひろのを紐解き紐付けていったのか、製作中や完成後の裏話も含めて座談会形式でお伝えしていきます。

(2021/04/14 記事 小向光)

●冊子配布方法
①「スタンド栞」での直接配布
②クロネコDM便でのお届け
こちらのリンク( https://forms.gle/9VacpLKEUQ4HPrnu5 )からお申し込みください。運賃元払いでお送りします。
③公共施設、飲食店など各店舗での配架
随時、配布施設を追加中です。
また、「ひろのの栞」の設置を希望されるお店の方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。

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このお知らせは、PR TIMESで公開した報道関係者向けの資料を一部編集し、作成したものです。

プレスリリース原文「岩手・洋野|過去から未来へ。地続きの風土を知り、伝える」 岩手・洋野のローカルメディア「ひろのの栞」、町の暮らしや生業、風土を伝える情報誌「ゆい」「つぎ」を発行(2022年4月27日公開)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000051212.html